千と千尋の神隠しは映画館で6回観ました
宮崎駿(1941-)ご本人がどこかで言っていました。
「千尋が長い木の階段を駆け下りる場面で、足を踏み外さなくて本当によかった。落ちていたらそこで物語は終わってしまっていたから」
と。
「そんなの、お話を決めるのは監督なんだから、落とさなければいい話じゃん!」
そう、私を含めみなさん思われることでしょう。…しかし、この監督さんの場合にはちょっと事情が異なるらしく、どうやら、作品を作るに当たって、シナリオ(文章)を書かないらしいのです。
絵を描きながらお話が進んでいく。シナリオを十分に推敲し、それが固まってから絵に着手するわけではないので、一度「やり直し!」となった場合の手戻りは、大変なことになります。
惜しくも今年亡くなられたミステリ作家の内田康夫(1934-2018)も、多くの連載小説を手がけたにも関わらず、
「書く前に犯人は決まっていない」「書きながら事件の結末を考える」
と公言して憚りませんでした。
「これを言うと編集者に怒られる」「プロの作家としてはこういうことはやってはいけない」
とも。
即興音楽としてのジャズとその天才
キース・ジャレット(1945-)というミュージシャンがいます。
ジャズ・ピアニストとご紹介できれば都合がいいのですが、一時期パーカッションなど、他の楽器を手がけていたこともあり、マルチプレイヤーと言うべきか。また、クラシック曲の録音も残しているので、ジャズと限定するわけにもいかず。。という厄介な才能です。
ジャズの「帝王」マイルス・デイヴィスが、「オレが一緒にやった中で、一番すごいヤツはキースだ」とも言っています。…マイルス・デイヴィスが一緒に「やっていない」ジャズ・ジャンアンツなど、探すほうが困難です。。(オーネット・コールマン?)
代表作はやはりこちらでしょう。
【ケルン・コンサート】
65分間のピアノ・ソロ・コンサートを録音したアルバムですが、すべてアドリブです。
したがって「曲名」とかは特に決まっておらず、ただ演奏した街の名と、年月日と、あとはパート1、パート2…と続いていくだけです。。
宮崎駿がやりたいこと
意外なことですが、宮崎駿の若い頃の作品「ルパン三世 カリオストロの城」は、プロット(シナリオ)のお手本として、シナリオ入門系のテキストに題材として取り上げられることもあります。
「思いつき」ではなくって、きっちりかっちりとお話を組み立て、どこに謎を置いてどういう順番で種明かしをするかを、立体的に構想しスタッフにしっかりと伝えた上で、「カリオストロ」という作品を「築き上げた」ようです。
ルパンご本人(山田康雄(1932-1995))が語ったところによると、最初は「若造」である宮崎駿が監督ということで乗り気ではなかったものの、そのシナリオを読んで感銘を受け、監督に頭を下げたとも。(ただし、宮崎駿側はそのエピソードを否定)
画家のピカソ(1881-1973)なども、似たようなことが言われますね。
若い頃は分かりやすく「絵がうまかった」(14歳のころのデッサンなど)。それが歳を追うごとに斬新な画風になっていき、誰も理解できなくなった、と。
方向性はどうあれ宮崎駿は、自分の作品に「動き」「偶然性」を取り入れたいのではないでしょうか。音楽史におけるジャズ(具体的には、チャーリー・パーカー(1920-1955)とその同時代の人々)の登場と役割は、まさにそれを体現しています。
宮崎駿とキース・ジャレットの「遺作」をかんがえる
不謹慎な話題で申し訳ありません。
…でも、同じ時代を生きられている大好きな芸術家の最後の作品。そして死後の評価は、やっぱり、気になります。
宮崎駿は現在、「君たちはどう生きるか」という作品の製作に取り掛かっていると言われますが、盟友高畑勲(1935-2018)の死後、ぱたりと手が止まってしまったというニュースも聞きます。
一方キース・ジャレットは「ラ・フェニーチェ」というアルバムがまもなく、2018年10月18日に発売されます。
…ですがこれは、2006年のコンサートの録音を商品化したもの。。
最近、というか21世紀に入って以降のキース・ジャレットのアルバムは、9割方がこの調子です。「RIO」という2011年4月にブラジルで演奏したソロ・ピアノのアルバムが、珍しく2011年11月に発売されたとき、
「レコード会社に掛け合って、自分の作品の発表スケジュールをずらしてこれを割り込ませた。それくらい重要な作品だと確信したのだ」
という本人のコメントが公表されました。…つまり、「キース・ジャレットのアルバム」は、本人の死後の発売スケジュールまで既にプランができている、と読み取れます。
実際、既に70歳を越えた御大は、数年前にピアノ・トリオの解散を宣言し、ソロ活動も今年の3月に行われたものが1年ぶりだそうで、次回がある保証などありません。。
(2018年12月8日追記)
上記2018年3月のコンサートは中止だったそうです。その後、2018年内のすべての演奏活動の中止を発表しています。
最高傑作はどれか?
…それは、ファンひとりひとりが決めればよいものです。ただやっぱり、「もう新作が出ない!」ということを実感したファン心理は、今とは違うものになるだろうとも、おもうのです。
初期の「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」が、やっぱり「好き!」という方が多いでしょうし、私もそうです♪
一方で、「後期」のかっちりとしたシナリオのない作品たちに対する感情が、私の中でどう、変化するのだろう?と。。
…キース・ジャレットについては、結構自分の中で消化できているつもりでいます。
【メロディ・アット・ナイト・ウィズ・ユー】
こちらの作品は、キース存命の2018年10月現在、ファンの間では評価の分かれる作品となっています。その「ファン心理」も、共感できるものが多く、
- キースの本気はこんなものじゃない!
- キレッキレのカミソリのような鋭さがない!
- そもそも即興じゃなくスタンダード曲を弾いている!
というかんじです。
事実この作品は、病気で休養していたキースが、リハビリがてらに自宅のスタジオで録音したものをあとから商品化したアルバムです。
すごく優しい曲調で、ある種のムード音楽として、普段ジャズなどは聴かない音楽ファンにもおすすめできる1枚になっています。
…でも、いや。。私にとって、このアルバムの印象の筆頭に来るのは、「恐怖」です。
優しいというよりも、静謐。それも、死の畔に佇むような、ささやかで、自然で、荘かな。
ジャズのアルバムの中で、個人的にこの作品に一番近いとかんじるのが、こちらです。
【ジョン・コルトレーン:バラッズ】
…たぶん、普通に似ています。優しい音色を紡ぎます。そしてコルトレーンのこちらの作品とも、同じくらい似ているとおもうのです。
【ジョン・コルトレーン:至上の愛】
生真面目というか、「くそ真面目」という、表現しかしようがないのですが、実力のあるジャズ・ミュージシャンが、本気で「神に祈ってしまう」と、こうなる例として聴き継がれる名盤です。
好き嫌いも分かれる作品ですが、カール・リヒターのマタイ受難曲に勝るとも劣らない、「こんな音楽を作ってしまって、どうするの?」感が漂います。
【J.S.バッハ マタイ受難曲:カール・リヒター(1958年版)】
クラシックネタは、本ブログでもそれなりに書いておりまして、「クラシックCDベスト・ワン♪」と仰々しいタイトルでご紹介している1枚は、そちらはほんとうにナンバー・ワンなのですが、こと「そら恐ろしさ」、言い方を替えると「神さま」を感じさせてられてしまうのは、こちらの3枚組のアルバムです。
「メロディ・アット・ナイト・ウィズ・ユー」
普段、ジャズを聴かない方にもぜひ、ムード音楽的に聴いていただきたいです。
20年後、30年後も飽きることなく、「夜の旋律」として、あなたの傍らにあり続けることとおもいます。
キース・ジャレット、その他のオススメ
ちなみに、ですが、キース・ジャレットのファンが悦びそうな「キースの本気」が詰まったアルバムも、最後にご紹介いたします♪(私の偏見と独断ですが。。)
【サンベアコンサート】
1976年11月に行われた日本ツアーの模様を、当時はLPレコード10枚組、今はCD6枚に収めたソロ・アドリブ演奏集です♪
タイトルは「Kyoto, November 5 1976, Part II」みたいな感じで、全部で13曲です!
内容がアドリブであることは前提として、曲の長さは長いもので40分以上あります。
日によっての雰囲気の違いは当然ありますが、それを含めてのアドリブ演奏記録。一番「重たい」キースの作品だとおもいます。
【The Cellar Door Sessions 1970 / Miles Davis】
…こちら、マイルス・デイヴィスのアルバム、というか、彼の死後発売された、これまたCD6枚組の重たいライブ・アルバムです。。
しかもここでキースは電子ピアノを弾かされています。。マイルス・バンドを脱退後のキースの電子楽器演奏は、ほぼ皆無です。(チェンバロなどは、バッハの平均律クラヴィーア曲集で弾いています)
従いまして、キースの演奏という意味では異端の部類に入りますが、CD5枚目の3曲目「What I Say」を筆頭に、「キース・ジャレットって、ほんとうにもうわけがわからない♪」と感じさせてくれる珠玉のパフォーマンスが詰まっています。(この「What I Say」演奏単体は、マイルスの「Live Evil」というアルバムにも無編集で収録されています)
【DEATH AND THE FLOWER】
キースはこのアルバムで、ピアノ以外にも色々な楽器を演奏しています。(打楽器と笛?)
あんまりマニア受けするアルバムではないと思いますが、私はキースの作品の中では、こちらが無性に好きです♪
…とあるジャズ喫茶に迷い込んだとき、常連さんたちのテーブルへのお誘いを、愛想笑いを返してカウンターに座った私に、マスターが「リクエストはありますか?」と聞いてくださって、掛けていただいたのもこのアルバムのA面でした。(本当は2曲目が一番好きですが、ジャズ喫茶の「リクエスト」は、たぶんアルバム一枚は掛けてくれないものなのでしょう)
自分がこのアルバムが「大好き♪」な理由は分かりませんが、相性なのだとおもいます。