マニアのプライド
マニア気質というのはやっかいなもので。。
…いえ、とてもお世話になりましたので個人的には、そういう方々に親しみを感じはするのですが、
これこそが最高だね!
みたいなことを誰かひとりが言い始めますと、本当に大変なのでやめていただきたいです。
しかもそういうことを決まって、お客さん(私を除く)が他にもいらっしゃるときに言い出すのは本当にやめてください!
…しかしながら私のような、たまたまそういう環境に居合わせただけの素人が、記事としてクラシックで最もおすすめできる1枚をご紹介するには、貴重な経験をさせていただいたと感謝しております。
ただでさえ小難しいイメージのあるクラシック。そのマニアの方々にとっての最高の1枚など、安易に決められようはずがなさそうですが、意外にも私の感覚で3割の方が、とある1枚を推挙します。
…ただそれが、1枚なんですけれども1枚ではないところが悩ましく。。ちょっと箇条書きで整理をさせてください。
バイロイトの第九について
- それは1951年7月29日に、ドイツで開催されるバイロイト音楽祭で演奏された録音である。
- 奏者は指揮者ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886-1954)&バイロイト祝祭管弦楽団、および同合唱団。
- 曲目は、ベートヴェン交響曲第9番。通称「第九」または「合唱」。
- 本演奏は、「バイロイトの第九」としてとみに有名。
- この、同一曲、同一日付、同一奏者による同一演奏のCDが、困ったことに無数に存在する。
- モノラルの貧弱な音源を元に様々なアプローチで作成されたCDに対して、各マニアおよび評論家が「こちらの方が音がよい!」という議論を延々戦わせている。
- 2005年に、フルトヴェングラーの録音の著作権が切れたことで、いろんな人が「自分が信じる最高の音のバイロイトの第九」を作成し始めた結果であるもよう。
- しかも、2007年になって、同一曲、同一日付、同一奏者による別演奏が発見され、混乱の極みに至る。
- あまつさえ、2007年発見版の方が、本番のバイロイトの第九であることが判明してしまう。
- では、それまでのバイロイトの第九とはなんだったのか?全員が疑心暗鬼に陥る。
- 結局それまでのバイロイトの第九は、当日のリハーサルの音源を元に他の演奏を切り貼りした加工品であったという説に落ち着く。
- 2010年末に、バイロイトの第九の版元であるEMIから、「ビートルズと同じアビイ・ロード・スタジオで、マスターから吟味してリマスタリングしたよ!」というSACDが発売され、私のような素人はこれで十分満足するに至る。
- 2018年現在、従来の(加工品)バイロイトの第九の評価は以前と変わらず名盤として扱われ、同一演奏の異盤での優劣が議論されている。
- 他方2007年発見版は、もうひとつのバイロイトの第九として、悪くないという評価が定着している。
およそ、こんな感じかと思われます。
バイロイトの第九のどこがよいの?
こんな拙い記事に目を通してくださる方の関心は、これいいね!と確実に思えるクラシックのCDを1枚知りたいというところにあるかと、おもっております。
その1枚こそはこのバイロイトの第九なのですが、周知の事実として以下の問題があります。
- クラシックは大概どれも長過ぎます。
- 退屈で眠くなります。
- 最後までとか、聞いていられません。
…せめて私自身の拙い体験から、試しに「こんな風に聴いてみてください」というコツを、曲と併せてご紹介します。
【ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 バイロイトの第九】
【ためしに、こんなふうに聴いてみてくださいませ♪】
- 作業用BGMとしてでよいので、70分以上のこの動画を何度か通して再生してみてください。
- なんとなく曲を覚えたら、第4楽章(49:28から)だけ、一度集中して聴いていただきたいです。
…いかがでしょう。フルトヴェングラーを嫌う評論家やマニアの方は、フルトヴェングラーを下品だとかポピュラー音楽と変わらないとか、よくおっしゃるのですが、私は全然、それで構わないとおもっています。
また、クラシックでそういう評価が出てくることも頷けるように、バイロイトの第九はなんというか、感情移入が激しく、お上品にゆったりと演奏しているかと思えば、突然ギアが切り替わってテンポではなくリズムが刻まれたりしてきます。合唱隊も、歌というよりこれはもう「シャウト」です。
そして最後はぐちゃぐちゃになりながら、…とある評論家の言葉を借りれば「セックスを連想させる」ように、クライマックスに向かって全員が突き進む…のだそうです。。はて?
「クラシック・ザ・ベスト」のような企画もののCDではよく、このバイロイト第九の最後の5分間くらいの抜粋が収録されています。確かにそこに、この演奏の魅力というか、エッセンスが存分に詰まってはいるのですが、多分70分通して聴いてその最後に、このフィナーレに至る方がより満足感を得られるとおもいます。
クラシック音楽鑑賞を、崇高な趣味のように捉える必要はまったくなくって、ただ、単品料理とコース料理の違いのように、10分くらいで食べ終わる食事もあれば、食べるペースまで相手に委ねて、食事という体験を楽しむ形もあるようなイメージで、一度この演奏を聴いていただけると、より多くの方にクラシックの魅力が伝わるのかな?と。
忙しい現代で、70分ずっと音楽を聴き続ける、ということが困難であることが、クラシック音楽鑑賞の敷居を高めている要因なのかも知れません。
ライブ演奏とスタジオ録音
実際、モーツァルトもベートヴェンも、録音技術のない時代に生まれ、音楽家として活躍しました。…従いまして、作曲者の意図した音楽体験は、例外なくライブ演奏であるという事実がございます。
現代では、ライブはむしろアーティストとの一体感を楽しむいわばお祭り感覚で、ちゃんと曲を聴くときには、同じ曲でもライブ演奏を収録したものではなく、スタジオ録音を聴く方が、なんとなく安心できるのではないでしょうか?
この安心感は、録音技術の進化とともに育まれた文化であって、正直なところ、クラシックやジャズといったちょっと難しいイメージのあるジャンルの音楽とは、相性が悪い感じが私などはしております。
…そして、CD1枚を通して聴くなどという時間を確保することが、決して容易ではない忙しい現代。
「作業用BGM」として視聴してみて、無意識の感覚に自らの審美判定を預けるやり方も、ありなのではないでしょうか?
バイロイトの第九のCDご紹介
・EMIが東日本大震災直前にリマスタリングしたバイロイトの第九です。2011年3月11日の深夜、私は揺れ続ける地面とネットニュースとこのCDで、眠れぬ夜を明かしました。。一番安心して聴けるバイロイトの第九です。
・2007年に「見つかっちゃった」もうひとつのバイロイトの第九です。普通にアマゾンで検索すると、とんでもない値段のものが先に見つかりますが、輸入盤はそうでもないようです。
・わたくしごときが恐縮ですが、あえて、「盤起こし」「プチプチノイズは気にしない」「演奏の生命力を!」などの観点で「バイロイトの第九のマニアックなCD」を1枚だけご紹介するならば、こちらになります。盤起こしとは、LPレコードからCDに録音して発売されたCDです。2005年にフルトヴェングラー関連の音源は著作権が切れましたので、数多のCDが発売されております。盤起こしかどうかは不明ですが、たしかダイソーの100円CDのレパートリーにもなっています。