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星になった音楽家たち

クラシック専門のCD屋さん「由紀レコオド」でのお話

コロナ禍の今、どうなってしまっているのか、知りたくもあり、心配でもありますが、羽田空港を離発着する飛行機が絶え間なく行き交う空を、CD屋さんの近くの公園で、よく眺めていました。

「飛行機事故で死亡する確率は、クルマの事故で死亡するよりもはるかに低い」という言い方がされますが、きっとそんなこともなかったであろう時代、お星さまになったクラシック音楽家のお話をさせていただきます。

ジネット・ヌヴー(1919-1949)

フランスの女性バイオリニストです。30歳ですでに「大ヴァイオリニスト」としての地位を築いていた彼女ですが、アメリカ演奏旅行のために搭乗した飛行機が墜落し、亡くなりました。

【ジネット・ヌヴー ブラームス:バイオリン協奏曲】

…お写真から、骨太な印象が伝わってき、どこかシンパシーを覚えてしまうのですが💦、実際にその演奏スタイルも「女性ヴァイオリニスト」というイメージにそぐわず、情熱的かつ力強いものです。

ヴィード・カンテッリ(1920-1956)

イタリアの指揮者で、同国の大指揮者トスカニーニに才能をこよなく愛されましたが、やはりフランスからアメリカへ発った飛行機事故で亡くなりました。指揮者としてはまだまだ「ルーキー」とも呼べる36歳でした。

ちなみにトスカニーニは、彼の死のちょうど2ヶ月後、89歳で大往生を遂げるのですが、カンテッリからのクリスマス・カードが届かない(事故は1956.11.16発生。トスカニーニの没日は1957.1.16)ことを不思議がる老トスカニーニに、家族は真実を伝えることはしなかったそうです。

【ヴィード・カンテッリ シューマン交響曲第4番 その他】

ピアニストのディヌ・リパッティを筆頭に、夭折した楽器演奏家は比較的容易に伝説と化し、その限られた演奏記録がありがたがられることが多いのですが、なぜか指揮者の場合には逆になるようです。。

たとえば、彼とほぼ同年代の「ライバル指揮者」には、レナード・バーンスタイン(1918-1990)がおります。共に鬼籍に入られたこんにちの目線で言えば、知名度でも功績でも、大きく引き離されてしまっている、というのが実情でしょう。

他方、ギュンター・ヴァント(1912-2002)という指揮者さんとの比較も、興味深いかと思います。カンテッリよりも8歳先輩のこの方は、80歳を超えてから「売れた」指揮者の好例として挙げられることが多いです。

売れっ子になればもちろん、仕事が増えるわけですが、それまで自分を評価してくれなかったオーケストラからのオファーは「信頼関係が大切だ」と断った、などの逸話もあります。

 

…今でこそ、有名人が亡くなるような飛行機事故であれば、当然ニュースになります(たとえば、ジャズのサックス奏者ウェイン・ショーター(1933-)の奥さんが亡くなった事故もウィキペディアにページがあります)が、ヌヴーもカンテッリも、その飛行機事故の詳細な記録を追うことは難しいようです。

巨人指揮者ハンス・クナッパーツブッシュ(1888-1965)などは、三半規管に問題があったと言われており、演奏旅行はヨーロッパ圏内に限られていたそうで、こちらは飛行機に乗らないことで生きながらえた(かもしれない)一例ですが、きっと、カンテッリよりも知名度の低いクラシック音楽家を含めた伝記を紐解けば、、不謹慎な言い方をいたしますが、それこそオーケストラがいくつもできるくらいの数の、航空業界黎明期の犠牲者を挙げることができるのでしょう。

 

由紀レコオドは、東京と横浜を結ぶいわゆる「産業道路」沿いにありましたので、そこから工場の立ち並ぶ海の方へと少し歩くと、ほんとうに猫の額ほどの公園が点在していました。

工場地帯ですので、見上げる空もそこまで広くはないにも関わらず、昼でも夜でも(夜訪れたことは一度きりですが)機影が絶えることはありませんでした。

旅客機の安全神話が、当たり前となる前の時代を知らないわたしですが、レガシーなクラシック音楽の鑑賞を通じて過去に思いを馳せていた日々を、こんなふうに思い出す一方で、まさかそんな飛行機が疫病という、クラシック音楽と絡めようとすると、チャイコフスキーがコレラで亡くなったとされるとか、「ベニスに死す」の主人公も(原作は音楽家ではなく作家ですが)やはりコレラで亡くなった20世紀初頭までの「昔話」のような原因で飛べなくなるという。。

どんなに人類が進化しても、変われないもの。繰り返し訪れる災厄は、あるのだなぁ。。と、いま思いを新たにしております。

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