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渡辺貞夫さん(1933-)と小澤征爾さん(1935-)

ともに日本を代表する世界的音楽家&御年80歳台です♪

ちょっとご年齢を調べようと思い立ったのは、このコロナ禍で、特にアメリカのジャズ・ジャイアンツたちが相次いで命を落とされていることと無関係ではありません。。

エリス・マルサリス、リー・コニッツ。。とくに、薬物の影響等で早逝した才能の多いジャズ界にあって、80歳、90歳台まで「生きる伝説」として君臨して来られた巨人たちが、このようなかたちで世を去られることは、悔しく、悲しいです。

本ブログのタイトルは、渡辺貞夫さんと小澤征爾さんですが、主にご紹介したいテーマは、「いったい、渡辺貞夫さんとは何者なのか?」ということです。

小澤征爾さんの輝かしいキャリアには、いちファンとしてさして謎はありません。ときの富士重工業(現SUBARU)から「事故を起こさないこと」「有名になること」という条件とともに1台のスクーターの貸与を受け、ヨーロッパに渡り、音楽家として成功し、「その芸術の集大成」に近づいたと言わざるを得ない近年では、水戸室内管弦楽団との「ベートーヴェン第九」が、話題と心配を振りまいております。

※コンサートでは体調の問題から、第3、第4楽章を指揮できず、CDの演奏は後日「別録」したものとのことです。

 

かたや渡辺貞夫さんですが、昨年の東京ブルーノートでのライブ音源でも、こちらのジャケットのようにお元気そうです♪

 

わたしは北関東民ですので、「ジャズの街・宇都宮」が、渡辺貞夫さんの出生地であることをほぼ唯一の根拠していることは幼少の頃から存じております。ですが、「渡辺貞夫」という音楽家に触れたのは、じつにここ数年のことだったり、しております。。

ジャズを聴き始めてから、10年以上は経ちますが、分かりやすい「ジャズの名盤」を教材とした学習の過程では、「ジャズとフュージョンは別物」「和製ジャズはジャズではない」というような偏見もあり、おそらく、意図的に避けておりました。

また、ジャズという音楽文化が、明らかにクラシック以上に「過去のジャンル」となってしまっていることも、一因かと思われます。クラシックでも、ヒストリカル音源が「新譜」として発売されることは珍しくありませんが、ジャズの場合、8割方の新譜が「発掘」あるいは「見た目を変えた再販」です。本当の新録音が話題になることなど、ごくごく一部の現役大物ミュージシャンの場合に限られます。

 

そんな「にわかナベサダファン」であるわたしが、「ああ、ナベサダさんて、こんなふうにすごかったんだ!」と理解するに至った過程を、全盛期の3枚のアルバムと共にご紹介申し上げます。m(_ _)m

【カリフォルニア・シャワー(1978)】

「日本フュージョン界最大のヒット・アルバム」と、手元のCDの帯にも記されておりますとおり、「世界のナベサダこの一枚!」には、こちらのアルバムを挙げられる方が多いのでは?と思います。

元より権威や流行に弱いマスコミが、この作品(のヒット)をもって、「世界のナベサダ」と言い出したのであろうことは、当時のことなどなにも分かりませんが、容易に想像がつきます。

時期的には、マイルス・デイヴィスの引退期にあたり、世の「ジャズ・フュージョンシーン」を牽引していたのは、ウェザー・リポートということになります。

こちらのアルバム、わたし個人といたしましても、かなり気に入っている愛聴盤です♪…とくに、後述する「オレンジ・エクスプレス」と印象がかなり似通っており、どちらもお気に入りであるのですが、「どっちの方がより大好きなんだっけ?」と迷うことも多く、両方の一曲めを聴いてみて、いつも「あ、こっちだ!」と気がつく、やっかいなアルバムでもあります。💦

これが「Q1.正統派のジャズなのか?」それとも「Q2.かつて流行り、そして廃れたフュージョンの名盤なのか?」そして「Q.3ウェザー・リポートと比べてどうなのか?」という部分ですが、私見ではありますが、以下のように回答させていただきます。

  • A1.古典的なジャズではありませんし、そのようなものが当時大ヒットしたはずがありません。カルフォルニアの風をゼリーにして運んでくれる、心地よく真新しい、まさしく「風」です。
  • A2.フュージョンという、レコードを棚に並べる際に必要だったカテゴリーが、その後衰退したことは存じ上げておりますし、いわゆる「ジャズ」と比べて「軽薄」という評価を下されるケースが多いことも聞き及んでおります。しかしながら、こういう「陽気で高度な音楽」には、常に需要はあると思います。特に、世界的に人類が強いストレスを抱えている今のような時節には、この「ナベサダ最高傑作!」を、多くの方に聴いて、そして爽やかな気分に浸っていただきたいです♪
  • A3.ウェザー・リポートは、なにしろ「エレクトリック・マイルスの子どもたち」です。面倒くさいのは、エレクトリック・マイルス自体が、「正統なジャズなのか異端か?」という議論にいまだ決着を見ていない存在であることですが、ナベサダさんよりも「ジャズの正統」に近いことは、間違いないかと思います。たとえ話ですが、マクドナルドもケンタッキーも、米国の味を日本向けにアレンジして、我が国の食文化に根付いております。同様にこの「カリフォルニア・シャワー」も、ナベサダさんがアメリカンな雰囲気をうまい具合に日本向けにアレンジした作品と、言えるかと思います。ジャズ・クラシックに限らず「コアな洋楽ファン」は、よりコマーシャルな邦楽を見下す傾向にありますが、そういう文脈に置いてみれば、「ナベサダなど、WRの足元にも及ばない」と言えるでしょうし、言わせておけばよいのかな?とも思います。わたしももちろん、ウェザー・リポートは大好きですが、日本人が日々の白米のように楽しめるジャズ・アレンジの音楽として、ナベサダさんは最高❗と、強くオススメしたいです♪…だって、ルパン三世に代表される「ジャズっぽい音楽」も心地よいですけれども、ナベサダ・ミュージックであれば、それプラス、アドリブも楽しめるのですよ♪

 

【ハウズ・エヴリシング(1980)】

想像は混じりますが、カリフォルニア・シャワーのヒットで「世界のナベサダ」となった勢いを駆って、日本武道館で行われたコンサートのダイジェスト版のようです。

「アルバムはメニューだ。料理を食べたければライヴに来い」

とは、マイルス・デイヴィスの言葉ですが、これはジャズに限らず、フルトヴェングラーを中心としたクラシックファンにとっても同様に、ライヴの方がスタジオ録音よりも楽しみが多いです。

…よい、悪いではなく、よりモダンなジャンルの音楽の場合、往々にして「ライヴはお祭り」「ライヴの演奏は『崩し』」「完成品はスタジオ・アルバムに入っている」という印象を抱かせることが、少なくはありません。これは、ある意味で音楽の決定的な「進化」「変質」だと思うのですが、詳しくはこちらのブログで取り上げております。(指揮者と録音)

1980年という時代は、ちょっと、リアルタイムに音楽シーンをわたしが理解できているわけではないのですが、すでにジャズが過去のものとなった時代ではありますので、多くの日本人は「世界のナベサダ!」と有難がりはしても、やっぱり「ライヴはお祭り」という認識だったのでは、ないでしょうか?

…それを、ナベサダさんご本人が、あらかじめ想定していると思われる記述が、このハウズ・エヴリシングのライナー・ノーツに見られます。それは、このアルバムに収録された11曲のうち、8曲が描き下ろし曲であるというものです。

マイルス・デイヴィスのアルバムを見ても、有名なカインド・オブ・ブルー(1959)で初登場した「So What」という曲は、マイルス・イン・ベルリン(1964)まで、アレンジとテンポを変え、繰り返しアルバム収録されています。ジャズもクラシックも、「曲を覚えて、それから好きになる」タイプの音楽です。ナベサダさんが、「日本の音楽ファンに本物のジャズを!」というような姿勢で臨むのであったならば、あるいは逆に「どうせ理解はされないだろうから、耳に馴染んだヒット・ナンバーを」というつもりであったとしても、巨大コンサートで新曲の披露をメインに据えるという選択は、なかったのでは?と思うのです。

少し穿った見方になってしまいますがこのときナベサダさんは、日本のファンに自分の音楽が、「アルバムで聴いた曲の『崩し』」として聞かれることを拒絶しつつ、他方「ちゃんとアドリブを聴いてもらう」ことも理知的に諦め、代わりに新作の発表の場として「音楽の生々しさ」を伝えようと、されたのではないでしょうか?

…こんな労力とリスクを背負った「日本武道館コンサート」が、果たして今後有り得るものでしょうか?

 

【オレンジ・エクスプレス(1981)】

「ナベサダはこんなにすごかった!」…つまり、それがいつ「過去のものになったのか?」そのヒントがこのアルバム、もっと具体的に申しますと、このアルバムのライナー・ノーツに記されておりました。以下、すごく乱暴に箇条書します。

  • カリフォルニア・シャワー(1978)で時代の寵児となる。
  • ハウズ・エヴリシング(1980)から、それまでのビクターからコロムビアレコードに移籍する。(マイルス・デイヴィスと同じレコード会社)
  • オレンジ・エクスプレス(本作)を最後にコロムビアとの契約終了。(以下、ライナー・ノーツ引用:「フュージョン黄金期を牽引した”世界のナベサダ”は、このレコーディングを終えて、しばしの充電期間に入る」(2016年2月 原田和典 記))

…結局コロムビアとの契約は、ハウズ・エヴリシングとオレンジ・エクスプレスの2枚のみ。これを双方に発展的な契約解消と考えることは、とてもできないでしょう。

近年のアルバムも聴いておりますが、やはり渡辺貞夫さんの絶頂期は、こちらの3枚にまたがる約4年間と言って間違いないと思います。

当時の日本映画での楽曲使用や、ご本人のCM出演など、「お茶の間の人気者」でもあったという事実は、わたしはこれらCDのライナー・ノーツで初めて知りました。それまではただ、「宇都宮出身のサックスおじさんが、実は世界的なジャズ・ミュージシャンらしい」という知識しか、なかったのです。「きっと日本のメディアが持ち上げただけで、とくにジャズ・シーンに名を刻むような音楽家でもなかったのだろう」とひねくれたことも思ったり。。m(_ _)m

 

ですが、その全盛期の音楽に触れて、今思うことは、「当時、すでに過去の音楽であったジャズを、フュージョン・クロスオーバーという文脈で日本人向けに発展させた、偉大で魅力的な音楽家のひとり」なのだな〜、ということです。

そういう耳で聴きますと、やっぱり最後の1枚「オレンジ・エクスプレス」は、どこか郷愁といいますか、物悲しい美しさを湛えて響きます。

燦々と降り注ぐ正午の「カリフォルニア・シャワー」で元気をもらい、「ハウズ・エヴリシング」では「即興演奏」どころではなく「新曲披露の巨大コンサート」という贅沢さを味わい、ちょっとテンションの上がりすぎた心を、斜陽のオレンジ・エクスプレスで癒やす、みたいな♪

 

…もちろん、「世界のナベサダ」がここで失速することなく、そのままコロムビア商法で世界のスターダムに上り詰め、いまやマイルス・デイヴィスと並ぶジャズのレジェンドとなっていた可能性も、あったかもしれません。

渡辺貞夫さんご本人の苦悩とか、そういうものが詰まっているはずの音楽を「癒やされるぅ♪」などとお気楽に聴いてしまう罪悪感。。

でもそれが「芸術家の人生」であることもまた事実でしょう。

以前のわたしと同様、「ナベサダさんって、どこがすごいの?」という疑問をお持ちの音楽ファンのみなさまに、上記3枚のアルバムを、全力でオススメさせていただきます❗

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