時代はヒップホップ?
最近アマゾンプライムで、映画がほぼ見放題になっておりまして、話題になったハリウッド映画を中心に、相当数視聴させていただきました♪
…そうしているうちに、なぜかヒップホップ(という文化の中の音楽ジャンルとしてのラップ)が無性に聴きたくなってまいりました。その理由はおそらく、流行の最先端を担うハリウッド作品が、先進的な音楽であるヒップホップを多く取り上げているからかな?と、自分では感じております。
クラシックオタクによるヒップホップの感想文
ヒップホップは歌詞を「リリック」といい、そのメッセージ性をとても大切にするそうです。
ですので、クラシックやジャズ、あるいはロックのように、「洋楽」として日本語の歌詞を有難がらない層が一定数存在するジャンルとやや異なり、ジャパニーズ・ヒップホップは、日本のヒップホップのメインストリームになっているようです。
…ただ、かなり昔に人から聞いたことでしかないのですが、黎明期の「日本語ラップ」には、致命的な問題があったと言われています。曰く、
- ヒップ・ホップに日本語の歌詞を当てはめようとすると、まったくヒップでもホップでもない硬派な内容になってしまう。
2019年現在この問題は、「ちょっとふざけた感じの歌詞」の導入でもって、解消されているようです。「ライム」と呼ぶようなのですが、「韻」を踏むルールがヒップ・ホップにはあり、わたしの印象として日本語ヒップ・ホップは、落語にも通じる「粋」を備えた文化になりつつあるように感じます。
他方、歴史的名盤(ヒップ・ホップ用語では「クラシック」と呼ぶようです)アルバムもいくつか聞いてはみたのですが、よく聞き取れないスラングな歌詞部分の魅力を無視するわけにはいかず、正直なところ、「よく分かりません」でした。。
【NAS(ナズ):イルマティック】
どのヒップ・ホップ紹介サイトでも、「名盤」の筆頭に上がるのがこのアルバムです。
クラシックやジャズのCDの場合には、わたしは例外なく安価な輸入盤をおすすめするのですが、ヒップ・ホップについては、歌詞を無視できないと感じましたので国内盤を挙げております。
前衛音楽としてのヒップ・ホップ
マイルス・デイヴィスの、「おそらく、今後音楽はどんどんと短くなってゆく」という「予言を」、一番体現している音楽ジャンルが、複雑なリズムとサンプリングを用いたこの「ヒップ・ホップ」だと感じます。わたしがこれまで親しんできた音楽とは、異なる魅力があります。
…ただ、色々なアルバムを何枚も聴いるうちに、「あれっ?」とおもうことが出てきました。具体的には、黒人によるヒップ・ホップと、他の人種によるヒップ・ホップの違いが聞き取れるということです。
語弊を恐れずに言えば、白人ラッパーや日本人による英語のラップには、「黒さ」が足りないのです。
ジャズの世界では有名なお話
声に限らず、サックスでもピアノでも、黒人ジャズマンと白人ジャズマンの「音」は、聞き分けることが可能です。
とあるジャズの入門書に書かれていたことですが、いつしかわたしのような素人の耳にも、不思議なことにそれは分かるようになりました。
理屈で説明することはできないのですが、端的に言ってブラックではないジャズには、「出汁(だし)が足りない」です。キース・ジャレットも渡辺貞夫も愛聴しますが、足りません。
ジャズの「うまみ成分」は、明らかにブラック・ジャズの中に多く含まれていて、定期的に摂取しませんと、「薄味のオタケンレコードさん盤で、バイロイトの第九を聴き続ける」ような禁断症状に見舞われます。
エミネム、エミネム
ヒップ・ホップ界最大の売上を誇るスターは、エミネムという人だそうです。白人さんです。聴いてみると、やはり「白い」です。リリック(歌詞)を追っていないので、その魅力を理解しているとは言えませんが、個人的には、ジャズと同様の「薄味」さを感じます。
マイルス・デイヴィスに再度ご登場いただいて、表現を借りるならば、このような「黒人音楽の白人による剽窃」は、当のマイルスの時代から繰り返されてきたようです。
- ジャズ:マイルス・デイヴィス → チェット・ベイカー
- ボーイズバンド:ニュー・エディション → ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック
- ヒップ・ホップ:(特定のオリジナルはなし?)→エミネム
ですので、…とまとめてしまって正しいかどうか、自信はありませんが、わたしはとりあえずエミネムさんには一定の距離を置いています。できれば、バド・パウエルくらい「黒さ」を感じられ、かつリリックを理解しようとしなくても、リズムの中に心地よさと、できれば旋律の美しさまで備えた、アルバム、アーティストを、アマゾンプライムの中から探し出したいとおもっております!
…となると、身も蓋もないのですが、現状わたしが愛聴している「前衛音楽としてのヒップ・ホップ」としてご紹介できるものは、やっぱり以下の2枚に、なってしまうようです。。
【マイルス・デイヴィス:オン・ザ・コーナー】
【マイルス・デイヴィス:ドゥーバップ】
マイルスは自伝を紐解くと、「オレは少なくとも5回は音楽を変えた」と発言しております。モダン・ジャズという、「構築美ではなく即興性」を重視したジャンルに留まっていたという見方は、やはり「マイルス・デイヴィス」という芸術家を把握するには窮屈に過ぎ、「シェーンベルクの音楽理論の正しさを、自分のアルバムで確認することができた」と言う一方で、「200年前に作られたものではなく、もっと新しい音楽を聴いて欲しい」と聴衆に求めた姿勢は、正直グレートにすぎて、現代の名のある音楽家のうちに、その志を受け継いでいると思える人物は、見当たりません。。
…とりあえず、クラシック、ジャズ、ヒップ・ホップは、それぞれお気に入りの作品を聞き続けるとして、「短くて新しい音楽」との出会いを、待ち望むことにしたいと思います♪
最後に、クラシックファンにおすすめしたいマイルス・デイヴィス
を、僭越ではございますが、1枚ご紹介させていただきたいとおもいます。
【ブラックホークのマイルス・デイヴィス Vol.2】
…その。。通常でしたら、「カインド・オブ・ブルー」を挙げておけば、それで事足りるとおもうのです。
実際わたしも、「スター・ウォーズ」のテーマ曲でも有名らしい、LSOの故モーリス・アンドレを私淑していたクラシック・トランペッターに、カインド・オブ・ブルーを貸してあげて大層喜んでくれた体験があります。
でもこのアルバムは、「ジャズ、クラシックはお勉強」という「建前」に即した「名盤」の側面があるように感じてもおりまして、例えるならば、おそらく「カインド〜」はカラヤン的で、こちら「ブラックホーク Vol.2」はフルトヴェングラー的です。
とくに、SO WHATという曲で聴かれるピアノのウイントン・ケリーの、ひたすら楽しげなプレイは、かのリパッティにも通じる純粋さを、わたしなどは感じることができ、そして、「マイルス・バンドの劣等生」として有名なサックスのハンク・モブレーは、マイルス・ミュージックにつきまとう「堅苦しさ」を一気に和ませてくれております。(ハンク・モブレーの「ソウル・ステーション」というアルバムは、わたしのフェイバリットです)
とにもかくにもクラシックに耳が馴染んでおられる方には、「アコースティック」であることは必須かと思いまして、こちらの1枚となりました。