映画「パガニーニ」
デイヴィッド・ギャレットという、モデル兼ヴァイオリニストが主演を努めた2013年の映画です。ニコロ・パガニーニ(1782-1840)は、超絶技巧ヴァイオリニストとして歴史に名を残していますが、一般的知名度はほとんどないかとおもわれます。
理由はひとえに、「演奏記録が残っていない」からです。伝説としてその「凄さ」は伝えられているものの、それでこの知名度です。作曲もしており、演奏機会もあるようですが、誰もが知っている「メロディ」はありません。
逆に言えば、演奏記録の残っていない楽器奏者として最も著名な歴史上の人物が、このパガニーニなのかもしれません。
たとえばフランツ・リスト。やはり生前は超絶技巧ピアニストとして知られていました。でも、こんにちでは作曲家として認知されています。指揮者だったマーラーも同様です。
「レコード」がないと「プレイヤー」の名前は残らない
ここで突然ですが、プロ野球のお話です。私はスポーツに限らず、「他の人が誰かと勝敗を掛けて争う」様を見ていることができないたちなので、全然詳しくはないです。
でも、プロ野球がまだ国民的関心事だったころ、「伊藤智仁」という選手だけは、応援していました♪
…確か、Youtubeで再生回数の記録を作り話題になったのが、こちらの動画だったかと。
この方、ネットで調べる限りは野球ファンの間では、「記録は大したことはないけれど、記憶に残る選手」として、今でも有名です。年齢的にもまだご存命で、指導者として活躍もされているようですが、私などは、こうおもってしまうのです。
「これだけYoutubeに『記録』が残っていたら、十分に『大記録を残した』と言えるのではないか」
と。実際動画のコメント欄にも、「現役時代は見たことないけど、ゲームみたいに凄い!」等、その映像(アーカイブ)は成績云々ではない「伝説」を生み出し始めています。
この時点で、パガニーニと同種の「悲運」を、「伝説の投手」伊藤(歴史上のお話なので「元」はつかない)選手は免れていると言えます。
「アーカイブ」と「ベンチマーク」
とりとめのないお話ついでに、今度は音楽でもスポーツでもない、別の動画も紹介させてください。
なんだか、朗々と喋るロマンス・グレーのオジサマ。
最近まで存じ上げなかったのですが、元日産自動車のエンジニア「水野和敏」という方です。…リアル赤木しげる?とか、思ってしまいました♪
この方が、とても面白いことをおっしゃっておられまして、要約しますと、
「アメリカは多民族国家なので、『数値としてのベンチマーク』が必要だが、同じことを日本でやっても退屈なクルマしか作れない」
この言葉を聞いて、はっとして考えたのは、こういうことです。
「サッカーって、なかなか点が入らないのをみんな熱心に応援していて、ずっと謎だと思っていたけれど、『数値化』できないところで楽しめている?」
「野球って多分、投手がボールを投げて、それが次に誰かの手に収まるまでを一区切りとして、その『セクション』毎に様々な記録がカウントされるけど、ベンチマークってそういうこと?」
「つまり、これがヨーロッパとアメリカの違い?」
…全然分かっていないのですが、野球の凄い選手って、成績でその凄さを説明されても、とりあえず「すごいね〜」と「説得される」以外にありません。。
一方、サッカー選手の凄さを熱く語る人の話には、数字はあんまり出てこなくって、「ああ、この人はその選手が大好きなんだなぁ」と「納得」できます。
どっちも等しく、分かってはいないのですけれども。。
音楽に話を戻します
クラシック音楽とは、言ってしまえば「ヨーロッパの民族音楽」です。
…分かりやすい、かも知れないです。アメリカの音楽産業では、「セールス」で音楽家の序列を決められそうですし。CDの売上枚数だったり、コンサートの観客動員数だったり。
あらかじめ「数値目標」として存在するベンチマークの中で、いちばんよい成績を残した人が、「一番優秀な音楽家」となるのでしょう。
もちろんクラシックの世界でも、売れない音楽家の末路は悲惨です。カルロス・クライバーも、父エーリヒには音楽の道に進むことを反対されました。
クラシック・ビジネスの中で「最もセールス的に成功した音楽家」カラヤンは、カルロスの才能を認めつつ、こう言ったそうです。
「彼は間違いなく天才だが、冷蔵庫が空になるまで指揮しようとしない」
カルロス青年にだって「指揮者としての成功」という野心があったはずです。…この野心と、アメリカ的商業主義が結びついていたならば、もしかすると2018年の今でもカルロスの「新しい音楽」を期待できたのかもしれません。(88歳。トスカニーニもヴァントも「まだ現役」でした)
どちらがよい、悪い、ではありませんが、「記録」という言葉を「アーカイブ」と理解するか、それとも「ベンチマーク」と捉えるかで、世界って別のものに見えるんだな。
と、今回思いました。
よるそら様のブログ興味深く拝見しています。お若いのによく勉強されていて、カルロス、クライバーのことなんか、初めて知りました。カラヤンはナルシストの自信家だから、そんなことが言えるのでしょうね。
パガニーニの映画見ました。モーツアルトも、ベートーベンも貴族や金持ちのパトロンがいなければ、世に出られない時代でした。パガニーニもリストもそうでした。パガニーニなんか、自分の作品を誰も演奏できないよう、独り占めしたくて作曲した楽譜を、破いて捨てたそうです。だから、活躍した割りには作品が多くありません。
パガニーニのヴァイオリン、コンチェルト1番五嶋みどりのが一番良いです。ロンドンフィル
レナード、スラットキン指揮です。
ベルリンフィルとも共演していますが、残念ながらCD はでていないようです。
クラシックビジネスもCD が最近は売れ行きが落ちて、過酷になりつつあると思いました。
片岡さん。いつもコメントをいただき、ありがとうございます♪
返信が遅くなってしまい、申し訳ありません。
いえいえ、昔から、役に立たないことばかりに気を取られ、それを無秩序に述べてよさそうなツールが、登場したに過ぎません。m(_ _)m
パガニーニの情報をいただき、ありがとうございます!
ブログの書き手が無益な情報しかしたためられていないところに、片岡さんをはじめ、皆さまの含蓄あるコメントをいただけてコンテンツが充実し、嬉しいと同時に申し訳ない気持ちです。。
CDビジネスは、10年くらい前ですと、ファンが同じCDを100枚とか買って応援するようなこともあり、問題視もされていましたが、今はクラウドファンディングなど、他の方法でより身近にアーティストを応援する手法が出てきています。
五嶋みどりさん、聴いてみます♪…そして、ファンになったら、ささやかですが本ブログで「CDが欲しい!」等、主張してみたいとおもいます。
よるそら。