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イップ・マン(葉問) – 中華の「華」はエレガンスの華

…ちょうど「餃子問題」で中国の食の安全性が問題視されていた頃、上海出身のお友だちが、お店を紹介してくれました。

日本橋高島屋の別館にある「糖朝」という、マンゴープリンが有名な中華料理店です。

「ぜひお粥を食べて欲しい」とのことで、主菜はそれに決め、スイーツは、お友だちがごま団子を、私は杏仁豆腐をいただきました。

お友だち曰く、「私は最初、ここのお粥は味が薄すぎて、店員さんに『お塩を持ってきて』と言った」と。でも店員さんの返事は、「素材の味を活かしているので、このままお召し上がりください」だったとのこと。

結局そのままいただいてしばらくのち、ここのお粥の味が忘れられなくなって、通うようになったそうです。

このお友だちに限らず、中国から日本に来ている私の知人の多くは、「中国人はまだ幼い」という言い方をします。それを恥らうような。でも、自国の誇りは忘れていない、というような。

そしてそんな時期に、私にこのお店を紹介してくれたのは、「中国文化本来の洗練」を、伝えたかったのだろうと思っています。

 

イップ・マンというカンフー映画は、有名なブルース・リーのお師匠さんに当たる方を描いたもので、主演はドニー・イェン。ジャッキー・チェンらとは、世代も知名度も随分と下りますが、私は大好きな俳優そして監督でもあります♪(監督としては、「一発屋」かも知れません。。)

そしてこの映画、私が人に紹介するときには、「ビスコンティのルートヴィヒの中国版だから!」と説明しています。

…カンフー映画という時点で、それはそれは猛々しい、血と暴力にまみれ、汗臭く、ものの良し悪しは別としても、「エレガンス」とは縁遠い内容と思われるでしょうが、そういった「粗野」さ「雑多」さを自らの歴史に取り込みながらも、「華」を貫いた古き良き中国文化が、この映画の重要な背景となっています。

「流派がないのが自分の流派だ」と言いのけたブルース・リーの、唯一の師とも呼ばれるイップ・マンは、「詠春拳」という、これまたエレガントなカンフーの使い手であり、劇中で彼を演じるドニー・イェンの動きも、野盗(それでもイップ・マンは「師」と敬称で呼ぶ)の攻撃を優雅にいなし、むしろ自宅の調度品を壊されることに眉を潜めるというもの。遂に奥さま(が遣わした我が子)に「外でやって!」と叱られるに及び、長衣の裾を上品に捲り攻勢に転じ、剣を持った相手を鳥の長羽一本で華麗に制圧します。

そして、日本では二部作(現在は三部作らしいが三作目は未鑑賞)として公開されたこの作品は、そんな中華の斜陽をも、見事に描ききっているのです。

 

「三国志」「項羽と劉邦」など、中国には史実に基づいた、優れた軍記物もたくさんあります。諸葛亮が現代に生きていたら。。韓進さえいれば、中国は再び世界の中心になれるのではないか?…嘘か真か、曹操のクローンを蘇らせる計画も進行中とか。

ところが、これら中国の「かっこいい戦いの記録」はすべて他国との戦争というよりは、同じ文化圏内での「紛争」であって、いわゆる外国との戦争では、一度も勝利したことがないのが、中国という国・歴史であったりもしています。。

その代わり、文化の伝染力は比類ないもので、自国を支配する他国の民族をチャイナイズ?してしまうので、「豊臣秀吉がもし、朝鮮出兵に大成功して中国まで支配下に置いていたならば、今頃日本はなかったかも。。」という考察もあったりします。(お仕事で一緒になった中国の人も、「漢民族の中には白人もいるんですよ。十字軍遠征のときにそのままこっちに居着いちゃった人たちの子孫なんです」とか、言っていました)

 

映画の魅力のひとつに、「この場所を訪れてみたい!」と思わせる力があると思います。

我が国の映画は、戦後長らく栄えた任侠映画、そしてバブリーな青春モノが廃れて以降、しばらく不遇の時代が続きましたが、やや持ち直した現代の邦画を支えている要素のひとつは、アニメ作品でよく言われる「聖地」。つまり、ご当地映画ではないでしょうか。

古くは大林宣彦の「尾道三部作」。最近は…、そうとは謳わず、或いは意図もせず、そして話題にすらならなくとも、たとえば水嶋ヒロ主演の「黒執事」なども、北九州市の特徴的な風景なしには成立しなかったように感じます。

私にとってイップ・マンは、中国映画で初めて「ここに行ってみたい!」と思わせてくれた作品でした。カンフー映画なのに、それ以外の素敵な要素が多すぎて単純な痛快さには欠けますが、本当に丁寧な描写に溢れています。

一作目では日本人が、二作目ではイギリス人が悪役として登場するのは、昨今の中国映画の「お約束」ですが、「剛」の空手に対する「柔」の中国武術というありがちな構図も、チャイニーズ・エクセレンスの説得力を伴って、私個人としては違和感なく鑑賞できました。

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