ei_zo, hon

エル・スール – 寡作作家と共に時代を生きること

10年に1作以下となった寡作映画監督

ビクトル・エリセという映画監督は、「10年に一度しか映画を撮らない」ことで有名です。

長編作品は「ミツバチのささやき」(1973年)「エル・スール」(1982年)「マルメロの陽光」(1992年)の3作のみ。監督自身の言葉では、「10年に1作しか撮らないんじゃない。撮れないんだ!」とのことですが、2013年の「新作」は叶わなかったことから、果たして次回作があるものか、とっても不安です。。

 

解散したバンドなども同じかと思うのですが、やっぱり「再結成」や、「○年ぶりの新作!」などをファンは期待してしまいます。たとえばビートルズなどは、ジョン・レノンの死によってその望みが断ち切られ、完全に「伝説」と化しましたが、作者の死によってしか完結(諦めともいう)しようがない物語って、実はものすごく多いです。

寡作作家はプロとしては厄介者

過去の芸術家の中で「寡作」で有名な人の代表は、レオナルド・ダ・ビンチではないでしょうか。

彼の活躍した欧州ルネサンス期は、現代のようにリアルタイムな情報はごく限られていたとおもわれます。レオナルドの顧客からの評価は、「彼は素晴らしい作家なのだが、何しろ作品が完成しない!」というものだったと言われています。

若手時代はともかく、一家を成してからは当然のように、オファーそのものが減っていきました。その傍らで、より若いミケランジェロ、そしてラファエロが精力的に活動したと言われます。(ラファエロは「作家」に留まらず、「工房の親方」として、37歳という短い生涯にも関わらず、多くの作品を残しています)

…当時の「職業画家」の生計を支えていたのは、大衆的人気ではなく少数の「パトロン」であったはずですが、レオナルドの死を人伝に聞き、「ああ、私が依頼したあの作品は、結局完成しなかったのか。。」と落胆した人もいることでしょう。

「北」から「南」へ

お話を、ビクトル・エリセ監督に戻しますと、私は2作目の「エル・スール」が一番好きです♪

エリセ監督の作風として、3作どれも極めて「静謐」な映画なのですが、一番有名な1作目は、「少女の幻想」を、入手困難な3作目は「画家の苦悩」を丹念に描いている中で、2作目には「父と娘の舞踏」があって物語に躍動感があることと、テーマも最も人間臭くて、心地よく泣けます。

3作の中で唯一、映像と共に音楽が脳裏に蘇ってくる作品でもあります。

原作は監督の奥さんであるアデライダ・ガルシア・モラレスという方。今は日本語の翻訳も出ていますが、映画化されたのは原作の前半部分だけで、後半は活字でのみ、辿ることができます。

まだ生きている好きな作家を全力で応援したい!

…とにもかくにも、「存命」の芸術家のファンになるということ。その作家がいつまでもこの世にいて、自分が死ぬまで新作を作り続けてくれるとは限らないこと。

だからこそ、その人のキャリアと同じ時代を歩めるということを、実感していたいです。

私がこのことをいちばん身に沁みたのは、2016年のキース・エマーソンの死去でした。…プログレッシブ・ロックも、ブログは書きませんが実は大好きです♪

いわゆる「ロックンローラー」たちとは違ってとても健全なイメージがあって、大御所さんの中ではシド・バレットを除き誰も早逝しませんでしたから、「プログレ・ミュージシャンは死なない!」という幻想を、その訃報に触れるまで「信じたい!」と願っていました。。

…でももちろん、そんなこと有り得るはずもなく。。

何度も節操もなく再結成を繰り返しているイエスで、二度とジョン・アンダーソンの歌声は聴けないのかも知れない。。

これを現実のことと考えると、ほんとうに空恐ろしいです。

けれど、覚悟しておかねばなりません。。

 

※以下の画像をクリックすると、アマゾンの商品詳細ページに遷移します。
【ミツバチのささやき&エル・スール】

3作目「マルメロの陽光」は、どうにも再販の気配がありません。エリセ監督作品は、レーザーディスクやDVD時代にも、すぐに中古市場でとんでもない価格になったことで有名です。

上述のように、私はエル・スール推しですが、ミツバチのささやきも大好きな作品です。「美少年」の高いハードルとして、「ベニスに死す」のビョルン・アンドレセンが屹立しているように、元祖「天才子役」とでも呼ぶべきアナ・トレントの怪演が凄まじいです。。

【エル・スール】(単行本)


日本語訳の発売は2009年のようです。アマゾンでのコメントも賛否両論ですが、多くの日本人が原作よりも先に視聴したであろう映画版とは、確かに雰囲気が異なります。

エル・スールは「南へ」という意味のようです。映画はひたすら薄寒い「スペイン北部」を描いており、闘牛やフラメンコを連想する「スペイン南部」は憧憬としてのみ登場します。

この小説版は、「北部」と「南部」をバランスよく書いているためか、あまり「エリセ臭」がないです。。むしろ日本人にとってお馴染みの「スペイン」の香りがします。

…でも、この本を読んで再び立ち帰る先は、陰気な「エル・スール」の世界。というところに、面白さがあるのかな?とおもいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です